教官 | 無責任から生じる齟齬というにはあまりにも小さいズレ |
教科(講座) | 愛しき子には足袋を履かせ |
投稿者 | |
投稿日 | 2021年02月19日 |
評価 | ど鬼 |
テスト | |
レポート | あり |
出席 | あり |
コメント | 銃身自殺だったらしい、3日前の出来事だ。私の家で遊んでいたジュリちゃんが唐突にそう私に告げた。誰が?そう聞こうとしたジュリはもうコリツェカ坂を下っていた。ジュリちゃんの手は私の大事な金髪のお人形さんを握っていた。返して!私は強く叫んだ。力の限り、坂の終わりまで届くように。ジュリちゃんの肩が震えた気がした。でもジュリの姿は見えなくなっていた。濃霧の中に消えたみたいだった。気づいたら私の周りに多くの野次馬が集まっている。何よ!何なのよ!自殺のこと?でも知らないわ!私には関係ないもの!
「追いかけなきゃ」
呟いた。自分の背中を押すように。
坂の終わりについた。小さい荒野についた。ここはよくタヌキとかが餌を探しに山から降りてくるみたい。おばあちゃんが言っていた。あれ、おじいちゃんだっけ?おじちゃんだった気がする。だって、おじいちゃんは猟師だもの。
草むらを掻き分けるように入っていくと、煤の匂いがした。色んなものを焼いている匂い。プラスチックとか木とか爪とか歯とか。私の人形が焼かれていた。周りには人が輪を描くように祈祷していた。皆一心不乱に何かを呟きながら祈っている。炎は祈祷者の思いを反映するかのように天高く昇ってゆく。
私は自由研究で作った銃をスカートから取り出して、打っ放した。人々は音も立たずに倒れてゆく。幸い私の人形はあまり燃えてなかった。それでも、ブロードみたいだった金髪はアフロになっていた。実験に失敗したサイエンティストみたい。私はクスッと笑って、手に持っていたアイスクリームを人形に塗りたくった。人形はみるみる元の姿を戻してゆく。お洋服はヨーロッパの貴族様みたいだ。
「良かった」
これも、グラデ山の山頂に建っている教会の宣教師様のおかげだ。私は南の方に見えるグラデ山の方向に向かって手を強く握りしめ、目を閉じて、感謝の言葉を告げた。
「ありがとうございます」
少女は目を開けようとした瞬間、山頂からパイプオルガンの音が聞こえたような気がした。違う。聞こえたんだ。宣教師様は確かに言っていた。この街は大きな教会なんだって。雲はパイプオルガンが吐き出しているんだって。こうして歩いている地面はみんなの祈りなんだって。空を飛ぶ鳩は祈りを届ける神様の使いなんだって。私はなんだか急に泣きそうになってきた。泣いちゃダメだ。
「神様が見ているだもの」
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