教官 | 設問2】 第1 捜査①について 1 捜査①が強制の処分としての「検証」に該当するかを検討する。該当する場合、捜査①は刑事訴訟法218条1項(以下法文名省略)の定める令状発付を受けていないことから、令状 |
教科(講座) | 設問2】 第1 捜査①について 1 捜査①が強制の処分としての「検証」に該当するかを検討する。該当する場合、捜査①は刑事訴訟法218条1項(以下法文名省略)の定める令状発付を受けていないことから、令状主義に反し違法と評価される。 (1) 検証は「強制の処分」(197条1項ただし書)であり、一定の場所、物、人の身体につき、その存在や形状、状態等を五官の作用によって認識する行為のことを指す。捜査①が「 |
投稿者 | 設問2】 第1 捜査①について 1 捜査①が強制の処分としての「検証」に該当するかを検討する。該当する場合、捜査①は刑事訴訟法218条1項(以下法文名省略)の定める令状発付を受けていないことから、令状 |
投稿日 | 2025年02月16日 |
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コメント | 設問2】
第1 捜査①について
1 捜査①が強制の処分としての「検証」に該当するかを検討する。該当する場合、捜査①は刑事訴訟法218条1項(以下法文名省略)の定める令状発付を受けていないことから、令状主義に反し違法と評価される。
(1) 検証は「強制の処分」(197条1項ただし書)であり、一定の場所、物、人の身体につき、その存在や形状、状態等を五官の作用によって認識する行為のことを指す。捜査①が「強制の処分」に該当するか検討する。
我が国の法が強制処分法定主義をとる趣旨は、国民の権利侵害を伴う行為であるにもかかわらず許容されるものを国民の代表機関たる国会に決定させることで、不当な人権侵害を防止することにある。もっとも、捜査対象者が同意している場合や権利侵害の程度が軽度な行為も全て強制処分としてはほとんどの捜査が強制の処分となり、国会の決定作業も捜査手続も煩雑となるから、「強制の処分」とは、(a)相手方の意思を制圧し、(b)身体・住居・財産などの重要な権利を実質的に制限する処分に限られると考える。
(2) 本件では、撮影対象者が捜査を認識していないから現実の意思抑圧はない。もっとも、当事者が認識しない捜査でも、合理的に推認される意思に反したといえる場合には、現実の意思制圧と同価値であるといえる。捜査①は、実施されると知れば撮影対象者に拒否されたであろうと考えられるから、これを満たす(a充足)。
また、捜査①は撮影対象者の姿態をビデオ撮影する行為であり、みだりに容貌等を撮影されない自由の制約となる。しかし、自ら入店した喫茶店内での様子を他人に見られるのは社会生活上受忍すべきものであり、撮影されない自由も重要な権利とはいえない。そして、喫茶店内での撮影は私的領域に踏み込んだものではないから、撮影対象者に重要な利益として保護すべきプライバシーの合理的な期待があるとも言えない。したがって、捜査①には重要な権利の制約がない(b不充足)。
(3) 以上より、下線部①の行為は強制の処分にあたらず、任意処分である。
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(1) もっとも、任意処分であっても権利利益の制約のおそれは存在するのであるから、無制限に許容されるべきではない。ある任意処分が適法であるか否かは、捜査比例の原則(197条1項本文参照)に照らして判断される。具体的には、事案に即して、その写真撮影がなされた目的、方法、態様、他の代替手段の有無等を踏まえ、捜査機関の利益と、被撮影者が右の自由を侵害されることによって被る不利益とを、総合的に比較考量して決する。
(2) 捜査①では撮影対象者から少し離れた席から撮影対象者の首右側及び飲食の様子が約20秒間撮影されている。捜査①は、覚醒剤密売の拠点と疑われる本件アパート201号室の賃貸借契約の名義人であり覚醒剤取締法違反という重大犯罪が疑われる乙と撮影対象者との同一性を調べる目的で行われているところ、撮影対象者が本件アパート201号室から出てきた人物であり顔が乙の顔と極めて酷似していたことからすれば、同一人物と疑うにたりる合理的理由があり、目的達成の必要性は高い。そして、撮影対象者と乙との同一性確認のためには撮影対象者の首右側に蛇のタトゥーがあるかを確認する必要があったが、首元は顔や服の襟で隠れやすい場所である上、確認対象たるタトゥーは小さいため、単に写真で撮影し形状を確認するのは困難であるから、ビデオで20秒間撮影する行為が目的達成のため相当な行為といえる。さらに、喫茶店内という外部の目に晒されるのを受忍せざるを得ない場所で、特殊な方法を使うことなく撮影をしたのみであるから、法益侵害の程度は高くない。したがって、乙との同一性確認という捜査機関の利益が侵害される利益を上回り、任意処分として適法である。
3 以上より、捜査①は適法である。 |